質問通告

立憲民主党の蓮舫議員による、櫻田義孝東京オリンピックパラリンピック担当大臣に対する、参議院予算委員会の質問をきっかけに「質問通告」が世間を賑わせています。

そこで、国会での質問の作り方、質問通告の仕方を、私のやり方を基に紹介してみます。あくまで衆議院しか経験していない私のやり方であり、参議院やほかの事務所、ほかの秘書さんによっては全く別の動き方をしている可能性もありますので、「こんなことしてないよー」という反応もあるかもしれませんが、ご容赦ください。

ちなみに私はこれまで、与党でも野党でも質問作成も経験しました。野党であれば、政府を追及する立場ですので、スキャンダル追及をしてもよいのですが、私は数十回の野党での質問作成の機会の中で、一度もスキャンダル追及の質問は作ったことはありません。これは当時仕えていた議員に感謝するところです。

質問作成の流れ

質問が決まってから、質問の作成を始め、委員会当日を迎えるまである程度作業の流れが決まっています。

※国会の本会議での質問と委員会での質問は作業の流れが大きく異なります。本会議での質問は、その作成に党本部が大きくかかわります。今回は、各議員事務所で作成する委員会質問について解説します。

1.委員会で質問することが決定
2.資料収集
3.質問構想
4.質問要旨提出
5.質問取り
6.質問詳細作成
1.委員会で質問することが決定

まずは委員会で質問することが決まります。私の原則としてこれが決まらないと、質問づくりはスタートしません。質問作成には膨大な作業が発生しますので、準備していたのに質問が飛んだ、などということになると壮大な無駄が発生してしまいます(我々のみならず、対応していただいた官僚の皆さんにも)。ですので、どの委員会で、いつ、何について、何分質問をする、ということが決まってから質問づくりを始めます。

一口に委員会での質問といっても、その委員会での議題によっていくつかのパターンがあります。

・大臣所信に対する質疑

各委員会は、それぞれ所管している大臣に対応して設置されています。一つの委員会に最低一人の大臣が割り当てられているのです。(内閣委員会は複数の大臣)。財務金融委員会なら財務大臣、経済産業委員会なら経済産業大臣、外務委員会なら外務大臣、といった具合です。

※予算委員会だけは、総理大臣を除くすべての大臣が、呼ばれたら出席しなくてはなりません。それ以外の委員会は、基本的に所管する大臣以外は出席しません。所管省庁以外の省庁に質問する場合には、副大臣以下の役職の方が答弁に立つのが通例です。

それぞれの大臣が、各国会の予算委員会が終わったら、各所管するところの委員会で、「所信表明」を行います。その所信表明に対して、全般的な質問をぶつけていくのが「所信に対する質疑」です。基本的には所管する分野であれば何を聞いてもいいですし、大臣の政治姿勢や、スキャンダル追及が行われることもあります。

・法案に対する質疑

国会では、本会議ですべての法案を細かく審議する時間はありませんので、各委員会に法案が付託され、各委員会で細かい審議をしていくことになります。テレビニュースで取り上げられるような対決法案は、野党も大切な見せ場ですので、大仰なジェスチャーを交えながら御涙頂戴の演説をぶったりもしますが、テレビ中継のない、まっとうな審議が行われている委員会では、基本的に与党も野党もそんなに激することはなく、法案の疑問点や問題点、などについて細かく質問していきます。議員によっては、一つずつの条文について疑問をぶつけていく、まさに「法案の審議」が行われます。法案提出の責任者として、所管大臣の出席が必須です。技術的な質問を事務方(官僚)に、大臣には決意を伺ったり政治判断を求めるべき段階で問いかけたりするのが一般的です。

内閣提出法案(閣法)ではなく、議員立法の場合は、法案提出者(衆・参議員)が答弁に立ちます。

・一般質疑

法案審議と法案審議の間に、一般質疑が行われるのが通例です。一般質疑では、具体的な法案に対してではなく、その委員会が所管する分野について、自由に質問ができます。

・参考人質疑

法案によっては、参考人質疑が開かれることがあります。法案に関係する業界の代表者や大学教授などの有識者が招かれて意見陳述を行い、その有識者に対して議員が質問します。

話がそれましたが、ある日突然議員から、「○日の○○委員会で質問することになったから準備して」と言われます。その○日、が一週間後、ならいいのですが、ほとんどの場合は2~3日前、時には前日の夕方だったりもします。議会日程がカッチリ決まっている地方議会であればこんなことはないのでしょうが、日程闘争が野党の抵抗戦術の一つとして機能している国会においては、大抵直前に決まることになります。

(あるときは、月曜日の朝の質問が金曜日の夜に決まった、ということもありました。土日は議員は地元に帰ってしまうので、ほぼ私一人で準備しました。)

もう一つ、大事なのが「質疑時間」です。質疑時間によって、質問の数を考えなければなりません。15分だったり60分だったり、様々です。

2.資料収集

次に急いでしなければならないのが、できる限りの資料の収集です。

法案に対する質疑であれば、法案の概要・条文、法案に関する報道(国会図書館にお願いすれば、新聞記事をスクラップして持ってきてくれます)、衆議院調査局で各法案ごとに論点をまとめてくれている資料もあります。また、これまでの同じ法案審議の議事録なども集めます。

大臣所信に対する質疑や、一般質疑であれば、議員から「○○について聞きたい」という指示があります。その政策課題についての資料を集めることになります。国会議員になる人であれば、さまざまな政策課題について、日頃から問題意識を持っているので、「○○について聞く」ということはわりとすんなり決まりますが、時にはそれだけでは時間いっぱい使いきれないような時には「ほかに質問することないか」と提案を要求されます。その場合、私自身が問題意識を持っていたことも、付け加えていきます。というわけで、秘書自身も常日頃から様々な方向へアンテナを張っていなければなりません。これらの場合は、もともとある程度の資料を保持しているのが普通ですが、最新の情報に更新するために念のため再度資料を集めます。

時間があるときには「事前レク」を受けます。法案の内容や、質問しようとしているテーマについて、担当省庁の官僚に来ていただいて、説明を受けます。

3.質問構想

集めた資料をもとにして、議員からも「○○を聞く」という指示を受けながら、おおざっぱな質問項目を箇条書きにします。議員と問題意識をきちんと共有できているか、がその後の質問作成のスピードに大きく影響するので、議員の問題意識がどのあたりにあるのかは細かく確認します。

4.質問要旨提出

質問項目がある程度固まったら、「質問要旨」を衆議院の事務局(委員部)へ提出します。今年1月に予算委員会で國場が質問した時の質問要旨を紹介します。この質問要旨は、当日委員会に出席する議員にも印刷されて配布されます。

予算委員会質問要旨

平成30年1月29日

自由民主党

國場幸之助

1.安倍政権の沖縄振興に対する実績について。

2.島嶼経済を支える取り組みについて。

3.沖縄の基地負担軽減に対する安倍政権の取り組みについて。

4.抑止力の維持と沖縄の基地負担軽減両立について。

5.米軍による事件、事故が相次いでいる事に対する現状について。

6.米軍関連の事件・事故の具体的な対応について。

7.復帰50周年事業や次期沖縄振興計画等について。

 

要求大臣:全大臣、特に

総理、外務、防衛、沖縄北方担当、国交、経産

 

5.質問取り

事務局(委員部)に質問要旨を提出したら、事務局から各省庁の国会控室に「おたく宛の質問が準備されていますよ」と連絡が行きます。そうすると、各省庁の国会控室から、「この質問の趣旨を聞きたい」と、議員事務所宛に問い合わせが来ます。

ここからが質問取り、いわゆる「もんとり」です。電話で質問の趣旨を説明すると、各省庁から、担当の官僚が議員事務所に派遣されてきます。(その日程調整等の作業も当然あるのですが。)担当の官僚と細かく質問の打ち合わせが始まります。

質問が、一つの省庁だけを相手にするものであればいいのですが、大抵そうはなりません。細かい「もんとり」の中で、「その質問趣旨なら質問先はうちではなく○○省ですね」ということに必ずなります。その場合、「4.」の質問要旨を作り直して要求省庁を追加したものを再度、国会の事務局に流します。そうすると、追加された省庁から慌てて担当の官僚が派遣されてきます。

そして、省庁間の答弁の押し付け合いや、こちらの質問趣旨を歪めて解釈して(絶対わざと!)別の省庁に答弁を振ろうとしたりする官僚の皆さんと神経戦を戦わせて、それぞれの質問を具体化、答弁する省庁の確定をしていきます。この作業の中で、大臣に答弁してもらうのか、副大臣や政務官なのか、それとも担当の局長や課長など事務方に答弁してもらうのか、も確定させていきます。

6.質問詳細作成

「もんとり」が終わって官僚の皆さんが全員帰ってから、質問の詳細を清書します。すでに「もんとり」の段階で、質問の骨格は出来上がっていますから、この作業自体はそんなに大変ではありません。しかし、この作業の過程の中で、さらに追加の質問すべきことが出て来たりもします。あるいは、あえて「5.」までの段階で、官僚には伝えなかった質問を議員からの指示で入れたりもします。

質問を細かく通告すると、細かい答弁が準備されます。それがふさわしい質疑と、そうでない質疑、その見極めは議員の腕の見せ所です。

先に紹介した「質問要旨」から「もんとり」を経て下書きし、最終的に議員が打ちなおして完成した質問原稿がこれです。(質問部分だけを抜き出しています)

Q1.そこで、沖縄担当大臣にお聞きします。政府の、沖縄における振興策と諸課題についての認識とその対策について伺います。

(江﨑大臣)

Q2.南西諸島の治安と安全保障環境の構築に対する政府の対策を防衛大臣と、海上保安庁を所管されている国交大臣にそれぞれ伺います。

(小野寺防衛大臣)

(石井国交大臣)

Q3.安倍政権としてこれまで基地負担軽減に向けどのように取り組んできたか、質問します。

沖縄の氣持ちに寄り添い、「出来ることは何でもやる」、「目に見える形で成果を出す」というのが、安倍政権のスタンスですが、今日までの実績と成果を示してください。

Q4.そこで、総理に質問です。沖縄振興は、一地域の振興にとどまらず、歴史においても外交関係においても重要な位置づけを占めています。総理の沖縄振興にかけるお考えをお聞かせください。

(総理)

Q5.特に安倍総理は安定した政権基盤と世界76の国・地域を訪問し、600回の首脳会談を行い、アメリカ大統領とも深い信頼関係を築いています。次世代も見据えた、安倍総理にしかできない、抑止力の維持と基地負担軽減の両立の策もあるのではないか。その見解をお聞かせください。

(総理)

Q6. まず、なぜ事故がこれだけ相次ぐのか。政府の見解を伺います。これだけ事故が連続するのは、一過性の原因ではなく構造的な要因があるのではないか、と思いますが、政府の見解はいかがでしょうか。(防衛)

Q7.最近相次ぐ米軍事故について、防衛省の調査とアメリカ側の認識のズレについて、事実関係の説明を求める。(防衛)

Q8.つまり、政治主導で、安全性が担保されるまで、訓練再開を見合わせるとか、事故やトラブルの原因究明を追求することは可能なのではないか。あまりにも、軍の論理に政治が引きずられすぎではないか。政府の見解を伺いたい。

Q9.在日米軍機による事故トラブルが生じるたびに、地元から様々な要請があがっています。一貫した内容は、原因究明と納得いく再発防止策が出されるまでの間は飛行停止を求めていますが、その要求に対して、米当局からどのようなフィードバックがあるのか、伺います。

Q10. そこで政府に伺います。米軍当局に整備の予算が足りていないという指摘や米議会での証言がありますが、それが在日米軍の軍用機の整備に影響が出ているのか否か、政府の見解を問う。

Q11.実効性のある再発防止に向けて、短期、中期、長期のそれぞれの観点から伺います。まず、短期的には米当局に整備にあてる十分な予算と人員、体制の確保を求めていくこと。当然、求めてらっしゃると思いますが、具体的に何がどのように改善されたのか?米当局からどのような報告があるのか。政府で確認されているか、伺います。

Q12.次に中期的な観点から提案いたします。随時自衛隊と米軍による共同訓練が行われているわけですが、これは主にオペレーションの分野であり、日々の整備をどうしているのか、そのあたりの情報交換や共同訓練などは行われていないと聞いています。日米が整備点検の段階から共同訓練、ジョイントユースをできないのか。点検、整備の専門家を交えた、機材の安全性に特化した専門家の人材交流や研修などを名目に、より日米の整備部門の現状把握、お互いの良いところを取り入れてお互いが勉強する、という機会を増やしていくことはできないか、ACSA(アクサ)協定で共同訓練時に整備を提供した例も数例あると聞いていますし、このくらいはやってもらえるのではないかと思いますが、この提案についてどう思われますか?

Q13. 長期的には、思いやり予算も一部活用し、整備部門の強化に努め、米軍に単に予算を出すのではなく、自衛隊サイドのコミットメント、交流できる領域を増やしていく、という戦略も必要になってくるだろうと思います。訓練、整備、運用、管理を日米共同化する、基地を共同利用する、そして究極的には管理権を日本政府へ移管していくことを目指していくべきではと考えていますが、政府の見解を伺います。

Q14.私は、米軍による事件事故トラブルを無くすことが日米同盟の基盤強化に直結すると当たり前ですが信じています。これまでの私の提案に対して、防衛大臣からは繰り返し答弁をいただいています。総理や、沖外務大臣、沖縄担当大臣からも是非答弁をいただきたいと思います。事故トラブルを無くするためにできることは何でもやっていただきたい、つまりはすべての大臣にこの問題にコミットしていただきたいからです。

以上が質問づくりの流れです。予算委員会だけは少し流れが違うところもあるのですが、基本は変わりません。

質問通告の齟齬がなぜ起きるのか

さて、ここで本題に戻りましょう。「質問通告」について、でした。しかしこの流れの中でどれが「質問通告」なのか、皆さんわかりますか?

私の考える質問通告は「5.質問取り」の段階です。そこで、何を聞くか、細かく打ち合わせをし、例えば統計データの紹介などもここで求めます。でなければ、細かい数字を委員会答弁でしてもらおう、というのは無駄に酷な準備を強いるだけです。お互い準備すべきところは準備をして、しかし隠し玉の質問で核心に迫る、これが「いい質問」だと私は思っています。

一方、野党の議員が委員会で「質問通告はしました」と主張していることを注意深く聞いていると、「4.質問要旨提出」のことを言っているのだな、とわかります。しかもこの「質問要旨」も「年金問題について」だとか「五輪について」だとか、おおざっぱすぎて、何を答弁として準備すればいいのか、途方に暮れるような質問要旨だけを提出してほったらかし、ということもあるようです。あるいは、質問することは通告しても、それを「大臣に聞く」とは通告しないパターンもありえます。

また、もう一つ考えられるパターンは、「もんとり」のやり取りの中で、議員側は「質問するぞ」と言ったのに、その後のやり取りの中でその質問をするのかどうかが曖昧になっていくパターンです。官僚側からすれば「うまく逃げた」つもりでも、議員側からすれば「質問通告したつもり」になっていたりします。

この認識の違いが、政府側は「質問通告は受けていない」、野党側は「質問通告はした」、という委員会での不毛なやり取りを産むのです。

基本は「”質問通告”は充実した審議」のため

原則として、質問通告は、質疑者から省庁へのサービスです。細かく質問通告をしなければならない義務はありません。何の準備がなくとも完璧な答弁ができるなら、質問通告などはいらないのです。まったく質問通告をしない議員もかつてはいらっしゃったそうです。「どういう質問がされるのか」は大臣の側、省庁の側こそが頭を下げて教えてもらうべきなのです。ですから、よく省庁の側の立場に立って言われる「質問通告が遅い」というのは答弁する側の甘えであると私は思っています。

しかし一方で、正しい質問通告をすれば、質疑の中で余計な時間を浪費することなく充実した審議をすることができます。議論の流れの中で、統計データの細かい数字を紹介してほしい、というようなとき、あらかじめ通告しておけば、すんなり答弁してもらうことができます。

また、事前の「もんとり」の中で、答弁の調整をすることもできます。担当の官僚から「こういう答弁になる」というのを聞いて、「それじゃあ弱い、ここまで踏み込んでほしい」というようなやり取りが行われるのです。そのやり取りの中で、「これまでにない一歩踏み込んだ、進んだ答弁」を引き出すことができる可能性が出てくるのです。

今後、「質問通告をした」「なかった」の不毛な争いを無くすために、私は、質問する側が通告した内容を事前に公表すればよいのでは、と考えています。

所信に対する質疑や一般質疑では、何について質問するのか一般の方には事前にわからないのが現状です。しかし、事前に質問通告が公表されていれば、もし自分に興味のある分野の質疑なら、インターネット中継を見てみようか、あるいは傍聴に行ってみようか、といった、有権者の政治参加の動機付けにもつながると考えます。

Tanaka_Kei
Tanaka_Kei

今回の騒動が空しく与野党のポイント稼ぎに終始することなく、今まさに行われている国会改革の議論に資することを期待しています。

野党議員の秘書をしていた時、総務大臣を退任された新藤義孝先生が、わざわざ事務所にご挨拶にいらして「在任中、いい質問をありがとうございました」とおっしゃってくださったことがありました。そういう審議ばかりになればいいですよね。